どんどん増える! カナンの神様大集合
御存知カナン世界には不思議な神様がいっぱい
キミはどれだけ知っているかな?

勧神帳の由来を知ってるかい?
 


090710:「タイガージェット神」ベーサール



カナン勧進帳の由来

 召使いの少年ヤムが主人の手紙を携えて
峠を越えようとしたところ、
そのあたりをナワバリにしている山賊に
囲まれてしまいました。
 ヤムは貧しく何も持っていなかったため、
山賊はヤムをむごたらしく殺すことにしました。
近くの村々に住む人々への見せしめのためです。
 山賊のカシラはヤムに山刀を向けると、
神様へのお祈りを始めました。
強盗の神、狩猟の神、血の神、刀の神……
長いお祈りが続きます。
 ひょっとしてこの山賊のカシラは
とても信心深いのだろうか。そう思ったヤムは
震えるくちびるを開き、勇気を振り絞って声を上げました。
「山で獲物を神に感謝するのなら、まず木々の神、
 それから全ての恵みを下さる太陽の神にも祈りを捧げないと、
 その怒りにふれるぞ!」
 カシラは吃驚してヤムを見ました。
ヤムの推測どおり、カシラは人を殺すことなど
何とも思っていない代わりに、神様の一柱一柱については
神経質なほど崇め畏れているのです。
 カシラはヤムに問いただします。
「お前は子供のくせに神様に詳しいのか」
「もちろんだ!
 おれはまだそれほど長くは生きていないが、
 おまえのようないい加減なお祈りを捧げるヤツは初めて見た!
 きっといくらもしないうちに神の呪いを受けて死ぬだろうさ!」
 カシラはビクビクと怯え始めます。
「そんなに神様に詳しいというのなら、
 お前の知っている神様について教えてくれ。
 ワシは英雄だから死ぬのは怖くないが、
 それでも神の呪いほど恐ろしいものは無い」
 そしてカシラは部下の一人の学のある者に筆記を命じました。
「今からこの子供の言う神を全て書き留めるのだ。
 そして神の話をする間は、生かしておくとしよう」
 それならばと、ヤムは自分の知っている神様について、
一つ一つ語り始めました。
 自分の急を知らす伝書の鳥はすでに飛ばしてあります。
 おそらく、明日の夜明けには
主人が助けの手勢を引き連れて駆けつけてくれるでしょう。
 休まず、途切れず語られる、
ヤムが幼い頃から乳母に聞かされた二〇〇(※注1)もの
神様の話に耳を傾けているうちに、
やがて山賊たちは不思議な体験をしていきます。

(以降省略)

 ※注1:この数字は伝承される地域により一〇〇〜三〇〇の幅がある。

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 上記は大陸のあちこちで寝物語に語られる有名なおとぎ話、
通称『勧神帳』の冒頭です。
 『勧神帳』というのはこの物語の表題であると同時に、
こうしてヤムによって語られた神々の話を
山賊が白紙に書き連ねていった書物の名でもあります。
 この物語の構造は『勧神帳』のオリジナルでは無いようで、
奇書『査神記』にある
神の名を一つ一つ呼ぶことでその災いを避けた老人のエピソードや、
それよりも古い書物である、
古代の神殺しの英雄がこれもまた神の名を次々に読み上げ、
その神が姿を現すたびに斬り伏せていったという
『裏南具縁起異聞』の一節についてもその類似性が指摘されています。
 それらの影響を受けたと思われる『勧神帳』が
いまの形で編纂されたのは比較的近代に近い時代になってからだと推測されますが、
主に口伝で語られ広まったことにより、
その地方に伝来する神々の物語や、人気の神、
または不人気の神についてかなりの偏りが生まれていて、
その内容は一様ではありません。