小鳥がくれた不思議なお菓子のおかげで、村はなんとかお咎めなしになった。
 ところがだ。息子が蘇ったのを見た王様はこう考えたのさ。「なんと驚いたお菓子じゃないか。これが沢山あれば、わしの兵士たちはすぐに生き返る無敵の軍隊になるぞ。そうなれば、隣の国を攻め取るのも簡単だ。なんとしてもこのお菓子を手に入れなきゃいかん」とな。
 家来に命じて王子を城へ帰らせた王様は猫なで声を出した。
「お前は三日の猶予をくれとわしに言って出かけた。この菓子を取りに行っていたのだろう。さあ、わしにあのソイカの在処を教えれば褒美に金貨をやるぞ」
「いけません。小鳥は教えてはいけないと言いました。そう約束したのです」
「教えれば、この村をお前に与え、貴人にしてやってもよいのだぞ」
「できません。どうかお許しください」
 若者は頑として王様の誘惑をはねのけた。なにしろ、小鳥が神様の変化だと信じていたからな。
 すると、王様は怒りだした。
「おのれ、野人の分際で! 教えねば、お前の母親を死刑にするぞ!」
 ってな。貴人なんて大概そんなものさ。
 何人かの兵士が、猟師の母を家から引きずり出してくる。父親を亡くした若者にとって、たった一人の家族だ。彼はとうとう観念し、ソイカのあった場所へ案内すると答えてしまった。
 こうして猟師は、王様を連れて山へ向かった。兵士が森の道を次々と切り開いて進んだものだから、森の動物は驚いたのなんの。鹿も猿も猪も、みんな遠くへ逃げた。ただ一羽、あの小鳥だけは、梢から梢に飛んで若者を見守っていた。
 夜になって王様たちが寝静まると、小鳥は彼の肩に止まって言った。
「あのソイカは、女神ミトゥンが夫神への贈り物として眷属に作らせたもの。こっそり一枚くらい盗んでも、数を覚えていないからいいけれど、あの王様は全部盗むに決まっています。このままだと貴方は、ラノート神に殺されますよ」
「安心おし、小鳥さん。王様はあれを手に入れたら無用な戦を起こして人々を泣かすもの、初めから渡すつもりはないよ。私はムングを敬い、機嫌を損ねぬよう生きてきたし、これからもそうするさ」
 猟師がどうするつもりかわからず、小鳥は首を傾げた。
 次の日のこと。若者は先に立って岩山を登った。王様や兵士たちも、お菓子欲しさに慣れない岩肌にとりついた。一人ずんずんと登った猟師が、岩山の天辺に近づくと、下の方から王様が怒鳴った。
「菓子はそこにあるのか!?」
「ございますとも、王様。でも、貴方に渡すお菓子はございません」
「なんだと!?」
「ミトゥン神のソイカの秘密は、私たちが死ねば守られますから……」
 彼は静かに微笑むと、自分の足場を崩して岩山から転がり落ちた。がらがらごうと沢山の岩が崩れ、下にいた王様も兵士も落ちて、みんな死んでしまった。
 むろん、猟師も死んじまったさ。だがな、彼の骸には小鳥が舞い降りたんだ。嘴にソイカをくわえてな。
 そして、蘇った彼が見ている前で、小鳥はミトゥン神に姿を変えた。驚く猟師に、女神はにっこり微笑んだ。
「私のために死を恐れなかったそなたに、心ばかりの礼をしましょう」
 彼女はそう言って三昧のソイカを猟師に手渡すと、小さな花びらに姿を変え、風に乗って飛んでいってしまった。
 この罠猟師が、後に“二度蘇ったワニクト”と呼ばれた英雄となり、国を継いだ性悪王子から民を救うために戦を起こすんだが、それはまあ別の話さね。

 マハ・スラー! お話はおしまい。