【一】

 大河ゴヌドイルに面した村に、ヌアットという若者がいました。
 ヌアットは今年成人を迎えることになっていて張り切っていたのです。どうしてそんなに張り切っていたかといえば、成人の祭りでおこなわれる槍投げ競争で一番になれば、自分の心に思っている相手と夫婦になることができるからです。
 そんなわけでヌアットは毎日槍投げの練習に余念がありませんでした。
 村の南のはずれからさらに南にある密林に向けて、大きく弧を描く槍が、朝早くから日が沈むまで何度も飛んでいきました。
 ヌアットの好きな相手は村の少女、ウラナナ。
 大きくてよく揺れる胸と、ぷっくりした下唇が魅力的な娘です。村で一番の美少女と言うわけではありませんが、ヌアットはこの娘が大好きだったのです。
 今日も、彼の年上の友達エシャーに「お前の未来の奥さんが踊りの練習をしているよ」と言われると、槍投げの練習を中断して少女の姿を見に行ってしまうヌアットなのでした。

 この年、村は近年にない不漁の年でした。いつもなら、豊かな糧を提供してくれるはずのゴヌドイルなのですが、今年に限っては、網を投げても糸を垂れても、まったく魚がかからない日が続いているのです。
 成人の祭りがあるこの時期は、漁の季節だというのに、村人はみな蓄えておいた干物ばかり食べている毎日です。
 成人の祭りを前にして浮かれているヌアットはともかく、村人の多くはこの先のことにたいそう不安な日々を送っていたのでした。




<とびら / 02>