【二】

 踊りの練習がおこなわれている大河沿いの神殿に向かう途中、ヌアットは村長と出会いました。村長はエシャーの父親でもあります。
 村長は見知らぬ女を連れていました。なかなかの美人ではありましたが、目つきがとても鋭く、ヌアットの好きなウラナナとは正反対の人間であると知れました。
 挨拶をするヌアットに、村長は彼女が呪い師であることを告げます。
「〈風読み〉のナナハだ」
 ナナハは笑いかけてきますが、その笑顔はなんだか怖いもののようにヌアットは思われました。
 そそくさとその場を立ち去り、神殿へと向かうヌアットです。
 神殿では、村の女たちが成人の祭りで披露する踊りの練習に余念がありません。笛や太鼓の音に合わせ、輪になって踊ります。だん、だん、と足を踏みならし、くるりと身体を回転させたりするなかなか激しい踊りです。
 その中でウラナナはひとりどうしても拍子に乗ることができません。周囲の女たちから一拍二拍と遅れてしまい、それを慌てて取り戻そうとして、振りを間違えるという有様です。
 みっともないといえばみっともない様子なのですが、そのたびに衣装に包まれた胸が大きく弾むので、見ているヌアットはうれしい限りです。
 ひらひらと舞う着物の裾から見えるふとももの付け根近くの肌の白さも、漁の水揚げなどで何度も見ているはずなのに、祭りの衣装で見ていると、また違った魅力を感じるのです。
 あまり熱心に見入っていたヌアットは、エシャーの接近にまるで気づきませんでした。
「熱心に見ているな?」
 背後から声をかけられて、ヌアットは飛び上がります。
「うわああっ」
 その声で彼がこっそり踊りを見ていたことがばれてしまいました。しかし女たちは、怒り出すどころか、エシャーが来ているのを知ってうれしそうな声をあげて殺到してきました。
 村長の息子で眉目秀麗なエシャーは、村の女たちの憧れの的なのです。本当は婚約者がいるのですが、女たちの方はお構いなしです。ヌアットのことなどそっちのけで、女たちはエシャーを取り囲みます。
 その輪からはじき出されてしまったヌアットは、地面にウラナナがばったりと倒れているのを見つけました。どうやら自分もこちらへ向かってこようとして、彼女だけ転んでしまったもののようです。
「大丈夫か?」
 ヌアットは手を差し出してウラナナを助け起こしました。こういうとき、ウラナナはにっこり笑ってヌアットの手に両手ですがります。そういう女の子なのです。
 身体をもたせかけるような格好で起きあがってきたウラナナに、ヌアットは真っ赤になったものでした。




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