【八】

 ウラナナの懐妊で、ヌアットの幸せはさらに大きなものになりました。
 彼はまるで奴隷にでもなったかのように、なにくれとなく妻の世話を焼き、よんどころない事情があるほかは、できる限り彼女の側にいました。
 日々膨らんでくる妻の腹に、毎日頬ずりをし、くちづけて、子供が誕生する日のことを待ちわびました。

 日々が過ぎ、その日がやってきました。
 もちろんヌアットは付ききりでお産の世話をします。
「がんばれ、がんばれ、ウラナナ! もうすぐだ。もうすぐ子供が生まれてくるぞ」
 長く苦しい時間が過ぎ、産褥の血にまみれながらウラナナの胎内から新たな命が誕生しました。
 それは耳をつんざく雄叫びをあげながら、ウラナナの脚の間でのたうち回っています。
 それは、彼が殺したはずの川の神の姿をしていたのでした。

 しばらくして、大河に魚たちが戻り、流域の村々の生活も豊かになったといいます。
 滅んだ村と、ひと組の夫婦のことについては呪い師の語る言葉に残るのみなのです。


おしまい




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