【七】

 どれほどの時間が経ったものか。
 ヌアットは川辺に打ち上げられていました。痛む全身に眉をしかめながら起きあがると、すぐ側に裸のウラナナが倒れていました。
 慌てて抱き起こすと、どうやら死んではいないようです。弱々しく息をしている少女に安心したヌアットは、その身体を抱きしめます。
 ひんやりとして柔らかい少女の身体の感触を感じると、ヌアットの中に、男の強い本能が湧きあがってきました。
 自分は神と戦い、それをうち破って腕の中の少女を手に入れたのだ。
 その高揚する気持ちが、一層衝動の火勢を増しました。
 こうしてヌアットは、ぐったりとしたままのウラナナと初めて結ばれたのです。

 ヌアットとその背に負われたウラナナが、村にまでたどり着いたのは、それから何日も経ってからのことです。
 しかし、そこはもう村と呼べる場所ではありませんでした。
 村があった場所は泥に覆われ、家もなにも跡形もありません。あちらこちらに大小の水たまりができているところから、川が氾濫して村を押し流してしまったのだと知れました。
 遠くから見ただけで、その場に人の気配がないことは分かりましたから、もうヌアットはそれ以上近づこうとはせず、村だった場所に背を向けました。
 なんでそんなことになったのかは、考えるまでもありませんでしたが、しかしヌアットは後悔はしませんでした。なにより彼の手元には愛しいウラナナがいたのですから。懐かしい家も両親も、大事な友人であるエシャーも、ウラナナと引き替えならば惜しくはないと思ったのです。
 そして、ヌアットの幸せな暮らしが始まります。ただウラナナにとってはどうだったのかわかりません。なにしろ、神の生け贄に捧げられたことがよほど衝撃だったのか、あの夜以来、少女はほとんど口をきこうとしませんでしたし、ただヌアットの言うことすることに従順に従うばかりになってしまっていたからです。
 それでも、ヌアットは幸せでした。
 川でその日の糧をなんとか手に入れ(神が死んでしまったせいか、相変わらず大河からの恵みは枯れていたのです)、妻とした少女の身体を毎夜抱きしめる。そんな生活に充分満足していました。
 そしてついに、ウラナナの下腹が小さく膨らんで、彼の妻が子供を宿したと知れました。




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