【三】

 日が赤く染まり、エシャーの周りに群れていた女たちもそれぞれの家に帰った頃、エシャーとヌアットはまだ神殿の敷地にいて、話をしていました。
 話といっても、ヌアットの悩みをエシャーが一方的に聞いてやるばかりなのですが。この日も、ヌアットはウラナナにお嫁に来て欲しいと言い出すことができなかったのです。
 ずっと熱心にウラナナのことを思っていながら、ヌアットはまだ彼女に好きだと告白していないのでした。そんな年下の友人に、エシャーは慰めの言葉をかけてやったりしています。
 そんなことをしているとき、ふたりに近づいてくる者の姿がありました。〈風読み〉のナナハです。
「夜神殿にいるのはよくないぞ」
 と、ふたりに注意をしてくれました。神が宿る場所は、人間には危険なことも多いのです。ことに夜はそうなのでした。
 ヌアットは専門家の言葉に素直にうなずいて、家へ戻ろうとしますが、エシャーは逆に自分から呪い師の方へと近づいていきます。どうやら、彼女に興味があるようです。
 あんな怖そうな女のどこがいいのかとエシャーは思いますが、ひとの趣味に文句をつけても始まりませんし、なにより村で一番女に人気のある男である彼がウラナナに興味を持ったりするよりはずっとましなので、彼はそれを放っておくことにして、自分だけ家に帰りました。
 その日は、ナナハが村にやってきたことを除けば、いつも通りの平和な一日だったのです。




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