【四】

 数日が経ち、成人の祭がいよいよ近づいてきました。
 その間、ヌアットは槍投げの練習に余念がありませんでしたし、ウラナナはやっぱり踊りがうまくいかずにひとり目立っていました。
 そして、呪い師〈風読み〉のナナハも忙しく立ち回っています。成人の日に執り行う儀式の準備なのでしょうか。さらにエシャーはなにかというと彼女のあとにくっついていって、行動を共にすることが多かったのでした。

 やがて、明日は成人の祭、という日になり、村長が村人たちを呼び集めます。
「去年の終わりから、大河からろくに魚が採れない。これは川の神のお怒りなのに違いない。川の神の怒りを静めるため、神嫁の儀式をおこなおうと思う」
 村長の言葉に、村人の半分はざわめきましたが、残り半分はしんと静まりかえっていました。どうやら静まりかえっていたほう、年かさの者たちはあらかじめ、村長の話を知っていたようなのです。いえ、儀式を執り行うかどうかの相談を彼らが集まってしていたのに違いありません。
 神嫁の儀式、川の神に花嫁を差し出して、その心を解く儀式といいますが、簡単に言えば贄を捧げようとそういうことなのです。
 ざわめきながらも、村人たちは村長の言葉を待ちます。
 神嫁の儀式をおこなうとして、実際に川の神の花嫁になるのか、それが問題だったからです。
 ヌアットも村長の方をじっと見ていて、背後に大人たちが近寄ってきていることには気づいていません。
 村長は眉をしかめ、重々しく言葉を続けました。
「生け贄には、シィバキの三女、ウラナナになってもらうことに決めた」
 ウラナナの悲鳴と、ヌアットの怒声が同時にあがりましたが、ヌアットはその場で大人たちに取り押さえられ、ウラナナはひとしきり悲鳴をあげたあと、気を失って倒れてしまったので、それ以上の混乱は起こりませんでした。




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